今月の見どころ
ガイドボランティアからのメッセージ 第36回 (2009年1月)

「 私の好きな作品 その20 

北澤美術館ガイドボランティア 諏訪市 小野川恵美子  


エミール・ガレ
羊歯文花器
高さ31.9cm 1895-1900年
新芽を促す 温かい風

命のたくわえを告げる 冷たい風

まくれる羊歯 ゆれる草

めぐる生命

森の中

花や昆虫などをテーマにした花瓶やランプの作品が並ぶ中で羊歯(シダ)や草を主役にしたこの作品は一見地味に見えます。ガレは、森の下草にどんな思いがあったのでしょうか。

ガラスを作るためには砂、アルカリ、それに石灰石が必要です。アルカリを得る方法としては、もし海の近くなら、オカひじきなどの海草を乾かして焼いた灰からとります。森の中なら、シダや松カサを集めて焼きます。
ガレの工場は、ロレーヌ地方の山にありました。シダは、ガラスの製造には欠かせないものだったのです。単なる雑草のひとつではなく、格別な思いがあったと思われます。

本体の器に違う色のガラスを何枚も重ねたり、ガラスの層の間に色ガラスで作った模様をはめ込んで、表面に彫刻したりして、模様が重なり合って見えるようにしています。これは、装飾に奥行き感を持たせることができます。また、ガラスの間に金、銀、プラチナ箔などを挟み込んで、輝く部分装飾をしています。

 こうした、さまざまな技法を取り入れて、吹き巻く風にあおられたシダや草の情景が表現されています。季節の移ろいや気象の変化、そして冷え寂びた美感を尊ぶ日本人の心を鷲づかみにする魅力的な作品です。

< 上高地 >
再び訪れた上高地は晩秋。 標高1500メートルの河童橋に立つと紅葉と穂高連峰の冠雪が目の前に広がり、このコントラストの美しさは気高くもありました。河童橋から大正池までの往復路は陽だまりに新鮮さを感じるほどの冷気と静寂が漂っていました。

静かなところでは感覚が研ぎ澄まされる

聞こえるのは

クマザサを渡る風の音

梓川の石にぶつかり流れる水の音

姿の見えない鳥の声

動くものがない景色の中

 動くのは心

 シラカンバやダケカンバの下草に群生するシダは、 周囲の草木が紅葉し落葉しても、いまだ緑色を保ち大きい円状を描いていました。霜が降り落葉すると、木々は冬を迎える準備を終わります。やがて白一色になり、上高地は長い冬に入ります。



河童橋付近
円状を描くシダ